公益財団法人 がん集学的治療研究財団

理事長挨拶

新公益財団法人での展望

- Evidence Based MedicineはResult Oriented Medicineでも同等の結果か -
今こそ個別化医療を目指した取り組みが必要
理事長 : 佐 治 重 豊

がん集学的治療研究財団は、母体が胃癌手術の補助化学療法研究会(胃手化研究会)で、これが1980年に発展的に解消されて厚生省医政局所管の財団法人として発足し、翌年に特定公益増進法人として認可された。それ故、臨床試験を主体とする本邦唯一の財団法人で、既に33年余の歴史を持つ大変貴重な存在で、2003年より患者に優しい癌薬物療法「プロジェクトX」を企画し、この方面で活動してきました。この度、2013年4月より国の制度改正に伴い「公益財団法人」に移行し、その移行祝賀会と記念誌(第3期10年の歩み)発刊の式典を7月に開催しました(詳細は記念誌及び当財団ホームページの新着情報を参照下さい)。なお、新規公益法人では、臨床試験での受託試験が公益性の高い事業として認可されましたので、今後は作用機序を含めた様々な臨床試験や個別化治療を目指した学際的な臨床試験も展開可能で、当財団の発展が益々期待されています。既に、当財団では1,000例を超える大規模臨床試験でも、期間内に目標症例数を超えて集積できる様になりました。

ところで、多くの臨床試験で確立されたevidence、標準的治療(current best practices)は、統計学的解析による策定で、一般臨床で実施されても、臨床試験と同等の結果が得られているかは、未確認状態であります。本来、標準的治療は実地臨床での治療成績向上に反映されて初めて意義があり(Result Oriented Medicine, ROM)、更に治療効果が同等なら薬剤有害事象の程度や治療中のQOLに対する評価(患者体験)等も詳細に検討し、事後の治療に有効活用すべきであります(Survivor Oriented Medicine, SOM)。幸い、この解析策として、電子カルテを含めたHealth Information Technology (HIT)の進歩・普及があり、個々の患者の治療方法や治療成績をデータベースとして登録できれば、big dataとしての解析が可能になります。既に、手術成績に関してはNational Clinical Database(NCD)への登録が義務化され、各施設間での治療成績の比較が可能になりました。しかし、がん薬物療法では、同じ標準的治療を選択しても、その治療成績は患者の宿主要因、病期や症状、家庭環境等の差により、EBMでの治療成績と異なる結果になる可能性が高く、乱立気味の標準的治療のどれを選択するかも主治医の裁量(Narrative Base Medicine, NBM)に依存するため、当然治療結果は異なります。しかし、治療開始前に効果を予測できるバイオマーカーや症例選択基準が存在すれば、患者に裨益するところが大きいと推察されます。この個別化治療への展開が、正に「次世代型がん治療法」として、当公益財団法人が取り組むべき最重要課題と認識しています。

この点、がん治療はTranslational research(TR)の成果を、臨床応用できる最適の領域(from bench to bed)で、当財団の臨床試験でも可能な限り付随研究を併設してきました。即ち、①肺癌に対するRT-PCR法を用いた骨髄中サイトケラチンの検索、②ホルモン陽性乳癌に対する各種バイオマーカーとホルモン療法適応症例選択基準の模索、③開腹術後の大建中湯による腸管運動能の検索、④StageU大腸癌に対する再発危険因子としてのCEAmRNA発現程度の検索、⑤再発・進行胃癌に対する日本人(1,400例以上)のHER2遺伝子発現頻度の検索、⑥Oxaliplatinの神経毒性に対するGWAS法による網羅的遺伝子解析(1,200例以上)等々の付随研究であります。これらは、何れもEvidence Based Medicine (EBM)にもとづく標準的治療での上乗せ効果を期待した取り組みでありますが、これらの成果により、最終目標のValue Based Cancer Care (VBCC)にも貢献できると信じています。

新公益財団法人では今後とも、一般研究助成事業によるTR部門の推進、各種臨床試験による新薬開発と併用療法時の薬剤間相性と相乗効果の評価、安全で効率的な標準的治療の確立、次世代型がん治療を目指した個別化医療の展開、低侵襲で低コスト医療の開発、市民公開講座等による啓蒙活動での医師・患者(家族)間の信頼関係の構築やモチベーション向上に貢献したいと考えています。更に、がん予防対策とその啓蒙活動、漢方薬や健康食品を応用した薬剤有害事象対策等についても検討予定であります。一方、当財団が実施してきた臨床試験による標準的治療(EBM)が、実地臨床でどのように活用され、治療成績向上に貢献できたかについても検証が必要と考えています。また、臨床試験の実施においては、更なる精度向上を目指した臨床研究の実施、ICH-GCPに準拠した試験体制の整備、SDV(Sourse Data Verification or Sourse Document Verification)によるモニタリング監査の実施等々の整備が急務であります。そうして、これらの条件を満たした事業展開により、社会的にも高い存在価値を獲得したがん集学的治療研究財団として成長し、がん患者さんの福音に貢献できると信じています。今後とも職員一同粉骨努力する所存でありますので、是非、多くの皆様方からご批判、ご助言、ご提言等を賜り、当財団を育てて頂けますよう、心からお願い申し上げます。

平成26年1月吉日